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エンタープライズ・システム

エンタープライズ・システム構築のトピックを解説します。

目次
  • その1 要求分析(ビジネス・アナリシス)

その1 要求分析(ビジネス・アナリシス)

要求分析の良し悪しでシステム開発プロジェクトの成否が決まるとよく言われます。
要求分析が不十分だったり、あいまいな部分を残したまま開発に入ると、システムがユーザーのニーズを反映していなかったり、実際の業務に使えなかったりすることが後工程で判明したりします。ユーザーの受け入れテストに入って初めて判明することもあります。

その結果、何度も手戻りが発生して開発コストが大きく膨らんだり、納期が大幅に遅れたり、最悪の場合、プロジェクト自体が中止となるケースも実際にあります。
筆者が見聞してきた限りにおいても、システム開発プロジェクトで発生するトラブルの原因が上流工程での不十分な要求分析にある割合はとても高いといえます。

要求分析が不十分になる理由はいくつもありますが、1つだけ挙げるとすると、要求分析の質が担当するコンサルタントの「力量」や「考え方」といった属人的な要素に依存することが挙げられます。

こういったことが要求分析フェーズの品質管理を難しくしていると言えるのではないでしょうか?

2009年12月に「BABOK」日本語版が出版される

さて、前置きが長くなりましたが、要求分析フェーズの種々の課題を解決するための1つの回答になりそうなツールとして、今回は「BABOK」(Business Analysis Body of Knowledge)を紹介します。
「BABOK」は、カナダの非営利団体であるIIBA(International Institute of Business Analysis)が策定したものです。
2009年3月にバージョン2.0が公表され、12月にその日本語版が出版されて注目度が上がったので、すでに御存知の方も多いと思います。
※「BABOK」は「ビーエーボック」と読みます。
「BABOK」バージョン2.0の日本語版ガイド(以下「ガイド」といいます)はIIBA日本支部のサイトで購入することが可能です。

「BABOK」とは?

このガイドによると、「BABOK」とは「ビジネスアナリシスのプラクティスをまとめたグローバルスタンダードである。本書では、ビジネスアナリシスの知識エリアおよび関連するアクティビティとタスクについて記述し、その実行に必要なスキルを説明する。」と書かれています。

ビジネスアナリシスについては「組織の構造とポリシーおよび業務運用についての理解を深め、組織の目的の達成に役立つソリューションを推進するために、ステークホルダー間の橋渡しとなるタスクとテクニックをまとめて、ビジネスアナリシスと呼ぶ。」と書かれています。

また、「BABOK」は以下の7つの知識エリアで構成されており、その一つ一つについてガイドで詳しく説明が書かれています。

  1. ビジネスアナリシスの計画とモニタリング
  2. 要求の引き出し
  3. 要求のマネジメントとコミュニケーション
  4. エンタープライズアナリシス
  5. ソリューションのアセスメントと妥当性確認
  6. 要求アナリシス
  7. 基礎コンピテンシ

詳細はガイドを見ていただくとして、「BABOK」とは、おおむね以下のようなものだといえます。

まず言えることは、要求分析をする人(「BABOK」では「ビジネスアナリスト」)は、ユーザーと効果的なコミュニケーションをとりつつ、的確に要求を引き出して分析し、ユーザーと合意に至ったものをソリューション要求としてとりまとめ開発プロジェクトに引き渡す必要があるということです。
そして、「BABOK」は、その一連の過程で必要となる事項、すなわち要求分析に有効な知識や作業、テクニックを知識体系として整理したものといえるでしょう。

「BABOK」はシステム開発プロジェクトを救う?

この「BABOK」をシステム開発の上流工程に適用すれば要件定義をしっかり固めることができ、納期遅れ等のトラブルを減少させる効果が期待されます。

実際にすでにいくつかの有力なITベンダーから「BABOK」の採用がアナウンスされているそうです。
(「BABOK」は方法論やマニュアルではなく知識体系であり、実際に上流工程に適用する際にはベンダー側で適用方法を整備する必要があるとのこと。)

「BABOK」が日本で普及するかどうかを見極めるにはもう少し時間が必要ですが、「BABOK」のようなスタンダードの登場によって、要求分析フェーズに関わるユーザーやコンサルタントが共通の用語や概念を基に議論が出来るようになるとしたら素晴らしいことだと思います。

(五島伸二 2010年7月1日)

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